間が空きましたが、業者様から溶接修理のご依頼を頂いた ショベルヘッド の続きです。
関連記事:ショベルヘッド エキゾーストポート 溶接修理
今回はバルブ周りの組み付けと付随作業をご紹介します。
分解前は特に問題なく、基本的には復元でOK…とのことなので、以下のご指定頂いた箇所を中心に軽く点検して組んでいきます。
ショベルヘッド バルブスプリング 組み付け工程
バルブの擦り合わせ
バルブは固着物をクリーニングし、もともと組まれていたものを再使用します。
まずはコンパウンドでバルブとシートリング1を軽く擦り合わせます。今回はシートカット2による修正までは行いません。
シートに光明丹3を溶いたオイルを塗り、対になる相手を回転させずに軽く接触させます。
この転写の状態で当たりを確認しますが、油膜が厚いと判定精度が下がるため粘度が肝心です。
バルブ周りの判定については、全周に濃淡なく色が付けばOKです。4
バルブステムの突き出し量点検
擦り合わせ後にバルブステムの突き出し量の良否判定。4カ所とも規定範囲の中間以下でした。
当初はここまで細かく書くつもりも無く写真を撮っていませんでした。すみません。
主に経年の摩耗やシートカットによる修正時など、バルブがシートリング側に沈むことで突き出し量が増えていきます。燃焼室容積が広がるので圧縮比も多少落ちます。
規定値を超える場合にはシートリングを入れ替える必要がありますが、突き出し量が大きく影響する箇所については別の機会に解説します。
バルブスプリングセット長の計測
次の工程はセット長5の確認です。使用過程にあってはバルブごとに差が出る場合があります。何ならOH時の外注加工後でも揃っていないことがありますが…。
今回はセット荷重6調整の指示があるので事前に確認しておきます。
公開するのは初ですが、しばらく前に専用のゲージを導入しました。 昔はノギスを使っていましたが、測定精度が低く何回も測り直すのが手間でした。
反時計回りに回すと全長が伸びる構造で、上側リテーナーの外周に張力を掛けられるため振れによる誤差が生じず、1/100mm単位の精密さながら1回の高精度で測定が可能です。
計測値から下側リテーナーの肉厚分を引くことでセット長が分かります。
残念ながらハーレー専用のサイズが見つからず、精度を保ちながら加工するのが超大変でした。
バルブスプリング圧力の測定
次の工程はスプリング毎に、マニュアル指定の高さに圧縮した際の圧力を測定します。
この高さは設計上もしくは突き出し量が多めの際のセット長のような気がしますが、摩耗していない100%純正品を見たことが無いので何ともです。今後機会があれば調べてみます。
まずはアウターから。
規定値:47.2~54.5kg@34.9mm
次はインナーです。
規定値:9.1~11.8kg@30.2mm
残念ながらどちらも規定値に満たず…。ご相談の結果、新品に交換することになりました。
参考までに内外合わせたセット荷重の新旧比較。高さはリテーナーの肉厚分を足した数値です。
規定合算値:56.3~66.3kg
合算値の下限が56.3kgなので、旧スプリングは3割も圧力が不足しています。経たりですね。
バルブスプリングの圧力不足で起こるトラブルは色々ありますが、低回転時、圧縮漏れによる始動性悪化やアイドルの不安定が分かりやすい症状でしょうか。
分解前まで問題なく動作していたとのことで幸いでしたが、一番恐ろしいのは金属疲労による折損からのバルブ落ちです😱
バルブスプリングセット荷重の調整
新品と言えど個体差がありますので、組み付け前に1本ずつ測定します。
全部撮りが意外と手間だったので代表画像で😓 もちろんデータは確りと記録してあります。
ちなみに白い点4個は個体識別用マーキングで、現時点では相手のバルブは決まっていません。
新品のアウター単体での圧力は旧スプリングと大差無いように見えますが、インナーの圧力が旧スプリングより強化され、内外合わせて圧力を稼ぐタイプとなります。
『本来高い数値からの減少』と『新品で元から数値が低い設定』では全く意味が異なります。
全て規定範囲内でしたので、各バルブのセット長に合わせてスプリングを組み合わせます。
リテーナーの厚みの個体差も加味し、実際の組み付け状態で測定したセット荷重が↓です。左上から F/Ex.→F/In.→R/In.→R/Ex. の順となります。
セット荷重は規定値の合算である56.3~66.3kgの範囲内、かつ個々の差が0.2kgとなりました。
シム調整不要…というか不可です。実は今までやったことないかも。詳細は次項で説明します。
余談ですが、実際のセット長は基準長より数%低め(圧縮気味)であり、これを基準長に換算するとセット荷重も数%下がるのですが、ここは絶対値で判断として良いと考えます。
何故ならセット荷重は燃焼室内に発生する圧力に基づいて設計されており、バルブ&シートの接触面積とセット荷重が適正であれば、突き出し量やセット長の高低に関わらず密閉力を確保できるからです。
本題に戻りまして、シム調整についてです。
このヘッドに適合する市販のシムは0.005in=0.127mmが最薄だと記憶しています。
常に圧力の掛かる箇所で強度も必要ですから、極端に薄くできないのでしょう。
では、最薄シムの使用を仮定して0.13mm圧縮した際の数値の変化をご覧下さい。
※作業後の撮影のため、他のショベルヘッドから取り外した中古品となります。悪しからず。
圧縮前は57.8kgですが、0.13mm圧縮後は58.6kgで0.8kgの増加となりました。
組み付け時点での差が0.2kgなので、セット荷重の均一化には0.13mmの1/4=約0.033mmのシムが必要ですが、強度的に無理でしょう。
ということでセット荷重は微調整が難しいため、シムによる調整ならば差が1.5%前後で収まれば良い方だと思います。ちなみに今回のヘッドの差は約0.003%です。
もう一方でシムにはセット荷重を稼ぐ用途があり、こちらがメインとも言えるかもしれません。
例えば、修正で深くシートカットした場合はバルブ突き出し量とセット長も同時に増加します。
修正前のセット荷重が規定値内なら、切削量と同じ厚さのシムを足せば元に戻る計算です。
が、そもそも各部が規定値内であれば、それに見合ったセット荷重に収まることが多いです。
後々を考えて、規定値外まで経たったスプリングをシムでかさ増しする調整は行いません。
また、リフト量が純正+α程度で常用域が2500rpm前後といった緩い動作条件であれば、必要以上にセット荷重やスプリングレートを上げない方が各部品の持ちは良いと思います。
なお私も含め、旧車でも泣く泣くシバいてしまう人種😇には硬いバネ・高い圧力がお勧めです。
さて、圧力絡みの話が長くなりましたが、バルブスプリングで何より大事なのはコイルバインド(以下C/B)7を起こさないことです。こちらも事前にチェックしてあります。
プレスで完全に圧縮してC/B状態で高さを測ります。手前に隙間が見えますが、奥でC/Bしています。
Hカム仕様のバルブ動作量 約9.9mmに対して十分なマージンが確保できているのでOKです。
追加工~組み付け、完成
スプリングは組み付けの準備が出来ましたが、リテーナーにも問題がありました。
2種類の形状のリテーナーが混在していましたが、一方は赤矢印の部分に当たりが付いています。
それぞれ仮組みしたのが↓の写真ですが、明らかにバルブの可動域に差があります。
測定したところ、当たりが付いていた右のリテーナーは0.5mmほどシールを押していました。
このタイプのステムシールは純正タイプより全高が高くなるため、バルブガイドの種類によって端面の高さ調整が必要になりますが、今回のガイドは未加工のまま組まれていたようです。
関連ページ:KibbleWhite Seal, Red Viton, 3/8″ Stem x 0.562″ Guide Seal
こちらは問題のリテーナーが組まれていたEx.バルブです(傘は軽く清掃しちゃいました)。
オイルを吸いやすいIn.側に比べても、随分とステムに固着物が多い印象でした。
白煙は無かったそうですが、シールが潰された隙間から徐々にオイル消費していたんでしょうね。
対処方です。組み付け状態でガイドを削るカッターも持っていますが、正直あまり加工精度が高いとは言えず、使用過程で内径が摩耗した状態では更に加工失敗のリスクが高まります。
幸い十分な削り代が確保できるので、今回はリテーナー側を削って対応しました。
スプリングのC/B同様にシール端からリテーナーまで十分なマージンを確保しています。
最後はストレスフリーで組み付けて無事に完成です。
OH作業ではありませんが、ついでなので気密チェックも行っています。まず問題ないでしょう。
とにかくポートの修正が手強く、大変長らくお待たせしてしまい申し訳ありませんでした🙇♂️
ご理解と応援を頂いたおかげで、確実に以前より良い状態に仕上がったと思います。
この度はご依頼ありがとうございました。更に精進しますので、今後とも宜しくお願いします。
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関連記事:アルバイトさん募集【再掲】
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