1981年式FXB・スタージスのクラッチ周辺整備・調整の続きです。
前回の記事を先にご覧頂くと本記事をより楽しく(?)ご覧頂けます。
クラッチペダルを踏むとクラッチハブがロックしてしまうので、クラッチの断続に関係するベアリングなどをチェックしていきます。

キックカバーの内部に有りますが、この年式はフィラーキャップを外すと目視できます。
というか、この時点で大事な部品が欠品しているため、分解確定です。
分解は確定したものの、一応ベアリング周辺の動きも見ておきます。
クラッチを切ると、回転している部品の動きが止まるのが確認できます。
クラッチの断続機構については後ほど解説しますが、摩擦を減らすための部品が機能していないのは非常にまずい状態です。
では、開けます。

開けたついでに色々と新品に交換です。
ちなみに欠品していたのはオイルスリンガーという銀色の歯車状の部品です。
直接クラッチの動作に関係する部品ではないです。無くても一応動きます。
ではなぜ必要かと言えば潤滑のためで、跳ね上げたオイルで周辺部品を潤滑します。

特にキックのスターターギアについて、Eg始動後は回転するメインシャフトの上にブッシングを介して乗っている状態となるため、潤滑状態が大変重要となります。
12時方向のL字プレートは、跳ね上げたオイルを伝わせて流す”雨どい”のような物です。
この補助が無いとオイルがブッシングまで届きづらくなってしまいます。
スローアウトベアリングは予想通りNGでした。
プレートがかなり抉れてました。ローラーが飛散しなくて良かったです。

なお組みつけた新品スローアウトベアリングは強化型となっており、純正タイプよりローラーの本数が増えて耐荷重がアップしています。

細かい話で言うと外径拡大によるローラー周速の増加や、いわば内輪差によるローラーのスリップ率増加などデメリットもあります。
しかし調整不良時を除けば常時回転しているベアリングではないので、摩耗の主原因であるローラーへの荷重を分散・低減できる方が圧倒的にメリットであると考えます。
そもそもこの後期型のスローアウトベアリングは耐久性が良くないとか、当たり外れがある…なんて話を耳にします。
しかし、自分が今まで見てきた限りでは、ほとんど壊れたことがありません。
その差は何なのか?という点について考察を書いてみます。
略図ですが、キックカバー内のスローアウトベアリング周辺の構造です。

レリーズフィンガーの穴には、カバーを縦に貫通するシャフトが通ります。
※レリーズ=release=リリースです。業界訛りです。
クラッチを操作するとシャフトを中心にスイングし、プッシュロッドを押します。
その際、プッシュロッドはクラッチ周辺部品を通してメインシャフト回転数と同期します。
カバーに固定されているレリーズフィンガーと回転するプッシュロッド、更にクラッチスプリングの反力も加わり、スローアウトベアリングには強大な荷重が発生します。
上から見ると、このような位置関係です。クラッチを切っていないフリーの状態。

プッシュロッドの中心線とレリーズ接点はオフセットしています。
クラッチを切った状態。スイングに合わせてレリーズ接点が移動していき、

完全にクラッチを切った時=スプリング荷重が最大の時に、レリーズ接点とプッシュロッド中心線が同軸となり、横方向への力が発生せずに荷重を一直線上で受け止める。
実際に完全同軸になるかは別として、この形態に近づくのがより良い状況と言えます。
そのためにはレリーズフィンガーの作用開始角と動作範囲がとても重要になります。

純正の調整方式ではレリーズレバーとトップカバー間の寸法を数値化しています。
結果としてレリーズフィンガーの作用開始角が定まるようになっています。
では実車で調整を行ってみます。
スーサイドクラッチ仕様でレリーズレバーが改造されているため、マニュアル記載とは別の位置で寸法を調整しましたが、レリーズフィンガーの作用開始角は純正と同じです。

するとレバーの延長部分がカバーに干渉し、動作量不足でクラッチが切れません。
こうなるとクラッチ調整スクリューを締め込み、レバーを後退させて=作用開始角を変化させて動作量を確保するしかありません。
レバーを後退させると内部ではこのようになります。例としてやや大袈裟に描いてます。

もともとオフセットしていたレリーズ接点ですが、クラッチ調整スクリューの締め込みによって、作用開始位置がベアリングの端に寄ってしまいます。
クラッチを切り始めると、ベアリングを斜めに押しながら接点が移動していきますが…
クラッチを完全に切った状態でも、レリーズ接点はプッシュロッド中心線を外れたまま。

負荷が最大にも係らず、偏った力がベアリングに掛かってしまうことになります。
以上の構造を踏まえ、改めて損傷したプレートを見て下さい。
全周で摩耗が発生したわけではなく、中心からオフセットして摩耗が発生しています。

4時5時方向の範囲が特に深く抉れているのが分かると思います。
実は5速ミッションにも同じタイプのベアリングが使われています。
しかし構造上、全体に均一に荷重が掛かるので寿命はかなり長いです。
さて、レリーズフィンガーの角度が重要なことはお分かり頂けたと思います。
この重要な角度を決定するのが、クラッチ側にあるアジャストスクリューの調整です。
雑誌のDIY記事などで『突き当りから〇回転戻し』というフレーズが登場します。
ただ、この箇所で言う突き当りというのは、↓のように既に危険な状態を意味します。

仮に1/4~1/2回転程度戻したところで、遊び調整が不適切だと再度接触→終了です。
オイルスリンガーの穴がナメて空転するトラブルも、大体はこれが原因です。
以上の理由から、フットクラッチのペダル位置の調整目的でアジャストスクリューの締め具合を決めるというのはNGです。
ペダル位置や動作範囲は、本来フットクラッチの機構側で調整可能にしておくべきです。
これらを反映しない部品をワンオフすると最初から調整不可となり、非常に高リスクです。
また、耐久性が高いとされる前期のコーン型ベアリングを組んでも、基本構造に問題があれば無理な負荷は別の部分に移るだけです。
結局、原理を無視したセットアップがベアリングの寿命を縮める原因だと思います。
長くなりましたが、以上、考察でした。
さて、その他のネタ。先端にボールが埋め込まれた社外品クラッチ調整スクリュー。
古くから存在する印象ですが、EVOの構造からのインスパイアなのでしょうか???

この1箇所だけ端面が半球になっても意味がなく、ボールは邪魔者でしかありません。
削り落とします。…新品を調達した方がコスパが良いかも。
走行時の異音は回転に合わせて断続しているような音でした。
スチールプレート溝のクリアランス過大が原因でしょう。

駆動トルクを受けるシェル回転方向と逆側が減るということは…
トルク変動の大きいハイギア×低回転、エンブレやスロットルOn-Offの多用など、後輪側からのエンジンに掛かる力=バックトルクが原因です。
旧車の場合、低負荷な乗り方を理解することも、各部の寿命を延ばすうえで大事です。
今回のケースのまとめです。
結局レリーズレバーの形状による問題は一式作り直さないと解決しません。
お客さんに状態を説明し、できるだけベアリングに負担が掛からないよう調整しました。
スタンド停車での撮影のため、車体の傾きによりクラッチハブの共回りが発生しています。
しかしペダルを下げると確実に切れています(足で止めてすみませんw)。
走行時、車体を起こした状態ではクラッチハブがゆっくり回転します。
100%の動力伝達カットではないにしろ、実用上問題ない範囲です。
EVO以降の湿式でも油膜の引き摺りで共回りしていますからね。
結果的に1速にも入りやすくなりました。
その後も調子良く乗られているそうで何よりです。
市内のW様、ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております。
今回のようにスローアウトベアリングの破損自体よりも、ワンオフしたスーサイドクラッチやレリーズ機構のセットアップ不良が本質的な問題であるケースも多々あります。
現在動作に問題が無く感じる…という場合は不調が出るまで判断が難しいです。
ハンドクラッチも含め、ご自身の車両のクラッチセットアップで気になる点がありましたら、現車確認の前提でご相談下さい!
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